耐震診断(一般診断法) | 有限会社 海老原建築

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Column

2024.02.12

耐震診断(一般診断法)

リノベーションをする上で、断熱補強と同じように重要な耐震補強。その上で、一般的に行う耐震診断が、「一般診断法」。


そもそもどんな診断方法があるのかというと、大きく3つに分類されます。

1)「誰にでもできるわが家の耐震診断」:居住者自ら実施可能

2)一般診断法:建築士、大工や工務店などの建築に関し多くの知識や経験を有する建築関係者が実施

3)精密診断法:原則として建築士が行う

という感じ。

  • 診断の流れ

「2012年改訂版 木造住宅の耐震診断と補強方法」によると、

まず、一般の方による「誰でもできるわが家の耐震診断」から行い、専門家による「一般診断法」にて耐震性を確認。耐震性を満足しなかった場合には、原則として「精密診断法」による診断を行い、最終的な補強の要否を判定する。とのこと。

  • 診断方法ごとの特徴

診断方法ごとの概要は以下の通り。

1)「誰にでもできるわが家の耐震診断」

単純に、問診等によって簡易的に診断を行う方法です。かなり簡単。質問に答えていくと点数が出て、その点数から簡単な指標がでる仕組み。

※参考にURL張り付けておきます。

誰でもできる わが家の耐震診断 (kenchiku-bosai.or.jp)

あくまでも参考にしておきましょうのレベルではありますが、参考にはなります。

2)「一般診断法」

専門家が行うものです。調査費用を考えて、耐力要素や接合部などの仕様や、劣化状況などの調査を「非破壊」で行います。つまり目視。なので、耐力要素や接合部の仕様や劣化などの評価に正確さを欠くおそれがあります。

3)「精密診断法」

原則は建築士が行うもの。ある程度の引き剥がしなども実施して、できるだけ正確に調査する方法。耐力要素を特定し、特定されたものに所定の耐力を与える方法。

耐震診断についての私見

さて、ここからは完全に私見です。

一般診断法ですが、実際に私が行政から耐震診断で派遣される際にも、この診断方法で実施することになります。

まず、建物の仕様がどのような仕様かなどの情報を整理していきます。

仮に、うちでリノベーションさせて頂いた、「高崎の家」でざっくり出力すると、頭紙にこういうものが出てきます。建物の概要ですね。

目視で現地調査するのですが、各所の劣化状況を確認したり、既存の壁がどういう仕様かを確認してそれぞれの壁がどのくらいの耐力があるかを確認します。非破壊なので、簡単に調査は可能です。

※場合によっては小屋裏や床下が確認できると精度は上がりますね。

こんな状態でも一応調査は可能ですが、大壁仕上げ(柱がわからない)で既存図面がないと非常に困ります。。柱の位置がわからないと、なんともきつい。。まあ大壁の建物の場合は、既存図面がおそらくあるでしょう、、。。

こういう真壁造(柱が露出)だと調査はかなりしやすいですねー。架構が平面で整理しやすいですね。

小屋裏や床下の確認ができるかどうか、というのは、昔から使われている主要な構造要素である「筋交い」の確認ができるからです。

このバッテンみたいなやつ。(ご存じですね。)

診断結果として、こういう感じになってきます。

どれだけの耐力がどこに存在して、四分割法で検証する、みたいな感じ。

「8.上部構造評点」、という項目が出てますね。ここで建物の上部構造の評価をします。

X方向の上部構造評点が「0.25」と一番小さいので、この建物の上部構造評点Iw値は0.25となります。

この数字が、0.7未満だと「倒壊する可能性が高い」という評価になります。


上部構造ってなんぞや?という感じですが、壁・柱や耐力要素、劣化度による建物の土台から上の評価、というイメージ。

つまり基礎や地盤は上部構造評点とあまり関係ない。
あんまり関係ないんですよね。。


一般診断法自体は悪いものではまったくありません。非破壊によって割と簡単に建物の評価が可能です。

ただ、既存の外壁や内壁にそれ相応の耐力を設定してしまうので、この結果のまま補強をするのは危険だと思います。
筋交いの入っていない、単純に石膏ボードを張っただけの内壁も耐力が発生することになります。新築で設計する場合はもちろん適切に施工しないと石膏ボード壁は耐力壁には算定できません。
※設計上耐力壁にはカウントできなくても、実際の壁、例えば塗り壁の木摺り下地などは、「耐力壁として効いている」ことがあるのでちょっと注意ですが。。

また、非破壊なので、実際の建物の状況を把握はしづらい。

実際に解体した状況です。下地が蟻害にあってボロボロです。筋交いも入ってはいますが、釘のみ固定で柱との緊結は十分ではありませんでした。こういうことがザラにあります。安易に非解体で補強するとけっこう危険だと思っています。

一般診断法で算出した壁の耐力は、あくまでも全体の安全性を確認するものであって、耐震補強をするための指針としては、その耐力は活用しない、のが個人的な見解です。

「2012年改訂版 木造住宅の耐震診断と補強方法」においても、

『補強が必要と判断された場合、補強計画を立案し、その具体的な仕様等を決定するため、補強設計を行う。合理的な補強計画の立案には、診断結果が参考となる。補強設計の妥当性を耐震性の観点から検証するため、補強後の診断を行う。補強後の診断には、「精密診断」が望ましい。仮に「一般診断」を行うとしても、調査を追加で実施し、「精密診断」なみの診断とする必要がある。補強が想定される箇所は、補強工事に伴い、いずれは外装材を引き剥がすことになる。したがって、補強後診断に対する追加調査で、引き剥がしなどを行うことは、費用等の観点からも問題は少ない。』

とされています。

ちょっと思うところありますが、「一般診断法を行って、補強部分を引き剥がさずに補強することは想定していない」、ということだと思います。まったく壊さないで補強することは望ましくないとも言えます。


補強方法については、どんな方法でどう行っているのか、その根拠はなんなのか、をよく確認すべきですね。